TOMYAM JOURNAL

世界の片隅でしたためる個人備忘録

[書籍]オリバー・ストーン オン プーチン

 

オリバー・ストーン オン プーチン

 

オリバー・ストーン 著 土方奈美 訳

 

社会派映画監督として有名なオリバー・ストーン監督の最新作であり、ロシアのプーチン大統領を2年に渡って直接インタビューしたドキュメンタリーの書籍版。ドキュメンタリー版は最近公開され、4月にDVDが販売される。

 

偏った報道に対する解毒剤となる本。

プーチンとロシアについてどういう印象を持っているか。

 

共産的。冷徹。抑圧的。スパイ。陰謀。淡々と領土拡大を狙っている。アメリカをはじめ西側諸国と敵対している。と行ったところか。さらには、プーチンのスマートな佇まいと無表情な顔から世界のラスボス感が感じられる。

 

私の持っている印象はこのような感じだが、本書を読んだ感想を簡潔にいうとこれらの偏った印象をだいぶフラットなものにしてくれた。

 

ストーン監督が西側の視点を軸に質問しそれをプーチンが自身の視点から答えていく。それらはどれもデータ、事実に基づいたロジカルな回答だ。特筆すべきは全く感情的な返答がなく、西側の作る悪者のイメージに反論してはどうかという監督の意見には、「そんなことしても無意味。聞く耳を持ってくれないだろう。」という半ば諦めに近いが、冷静だ。

 

本書を読んでいくほど知的で頭が良いという印象が強まっていく。多くの情報を的確に理解していて合理的な考えを持っているところから勤勉さを感じる。報告書は官僚が作った要約ではなく原書全てに目を通すというくらい徹底している。政治家というより経営者と言った印象を持った。事実破綻寸前のロシア経済を立て直し、2005年にIMFからの借り入れを完済、2000年からの12年間でロシア国民の平均所得を約10倍にしたのだからその手腕は確かなものだ。これなら長く国のリーダーとして支持されているのも納得いく。(弾圧して独裁政権を維持しているという可能性も否定はできないが本書ではそこまで切り込んでいない。というかうまく躱されている。)

 

アメリカの仮想敵としてのロシア

アメリカをはじめ西欧諸国との関係は良くないわけだがそれに対して、

 

「アメリカは常に敵国を必要としている。だから悪者扱いされている。」

 

NATOも拡大しないという約束だったのに拡大させた。ABM条約も無視しウクライナにミサイルを配備した。自国にミサイルが向けられているのならばロシアもそれに対応した措置を取らなければならない。」

 

など現在の緊張関係に対するロシア側の理屈は一読の価値はある。

 

色々やらかしてるのはアメリカの方じゃないかと言わんばかりだ。言われてみるとそうなんだよなと妙に納得させられてしまう。世界中の同盟国に軍隊を送ったり、兵器を配備してアメリカの影響下に置こうとしているのだから。どれだけ支配欲が強いんだよと確かに思ってしまう。

 

このインタビューは西側のメディアではロシア擁護のプロパガンダだと厳しい批判を浴びているらしい。確かにプーチンの負の側面に食い込んでいないので物足りなさはある。本音で語っておらずリップサービスの部分もあるだろう。それを差し引いても良いインタビューだと思うがそれでもアメリカや西側のメディアは皆頑なにロシアに批判的であり、それがデフォルトなんだという態度が伝わってくる。

 

日本のあやふやな態度はある意味正解では?

日本は欧米寄りなのでロシアに対する報道は必然として欧米寄りになりやすい。だからこそ本書を読む前のロシアとプーチンに対する印象は冒頭に述べたようになったのだが。だからこそ日本人が読んでも面白いなと思う。

日本は国際問題についてあまり他国を厳しく批判しない。はっきりと立ち位置を示さ無いのでそういう部分では欧米と態度が合わず、スッキリし無い感じはする。しかし偏った視点に流されずに済むという利点もあるのかもしれ無い。

本書では日本との関係にはほとんど触れられていないが日本はロシアの隣国であり政府は今後ロシアと経済開発などでより関係を深めて行こうとしている。

その先には北方領土の問題もあるわけで今後ロシアとの関係はより注目を集めるだろう。

 日本は親米であるが欧米諸国のような敵対する国としてのロシアではなく独自の関係を築くことをするのだろうか。もしそうならどのように米露のバランスをとっていくのだろうか。

 

今度、映画の方も見てみよう。

 

 

オリバー・ストーン オン プーチン

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オリバー・ストーン オン プーチン [DVD]

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