TOMYAM JOURNAL

世界の片隅でしたためる個人備忘録

[書籍]英国一家、日本をおかわり

マイケル・ブース 著  寺西のぶ子 訳

 

英国一家、日本をおかわり

 

前作「英国一家、日本を食べる」から10年ぶりの続編。前作を読んだことはないが割と有名なシリーズなので購読した。

 

安直な日本文化礼賛な内容ではない

実は前作を読んでいなかった理由としてタイトルがある。

本でもテレビ番組でもそうだが、”外国人が日本を褒める”的なスタイルがどうも苦手なのだ。「英国一家、日本を食べる」というタイトルも少しそんな匂いがしていてどうも読む気になれなかった。

しかし、今作はそんなことは杞憂だということがわかった。著者は食文化に精通しているフードジャーナリストであり、本書でも食文化の歴史と背景を深く掘り下げて分析している。著者の日本文化の贔屓目はあると思うがその分を差し引いても日本の食文化の解説書として十分読み応えのある内容だった。

所々で日本の食文化へ疑問をぶつけているのも”外国人が日本を褒める”スタイルを期待していた読者への解毒作用にもなっていると思う。

その他にも冷静な意見が随所に見られる。

 

職人文化はナルシズムである

日本人は献身的で、情熱を持って仕事をしている。その例の一つが職人である。日本人の職人お多くは結果ではなく過程を重んじる。著者はそのプロフェッショナリズムを評価し、息子たちに仕事への献身的な態度の大切さを学ばせようとしている心情がよく見られる。

一方、閉鎖的な伝統への疑問も提起している。

例えば和食の職人になるために最初の数年間は雑用のみに従事することや、師匠の技も教えてもらうのではなく見て盗むという効率の悪さを指摘している。また、日本のお店ではよくある一見さんお断りも外国人や観光客を冷遇しているのではないかと批判している。

哲学を語りすぎるラーメン屋、高級化しすぎる寿司屋など職人気質な人ゆえの自信からくる奢り高さにも冷ややかな視線を送っている。

確かにラーメン屋には”俺の生き様を味わえ!どうだ!”と言わんばかりのお店があって僕もそいうお店は苦手だ。

 

イギリス人一家の珍道中記かと思った本だったけど日本人でも知らない食文化の歴史や問題点などの示唆に富んだ面白い本だった。

日本人はうまい料理を作る技術は素晴らしいがそれを作る素材や資源の将来についてはまだ無関心という指摘も面白かった。西洋では食糧問題への関心は高く、廃棄食材を使ったビジネスや、動物性の食材を一切食べないヴィーガンというスタイルもよく目にするようになった。日本人は技を磨くという点は熱心だが社会問題への意識というのはまだ低いのだ。

 

英国一家、日本をおかわり

英国一家、日本をおかわり