TOMYAM JOURNAL

世界の片隅でしたためる個人備忘録

すいません、ほぼ日の経営

 

すいません、ほぼ日の経営。

聞き手 川島蓉子 語り手 糸井重里

 

糸井重里さんが経営する会社ほぼ日の経営についてのインタビュー。

 

まず本書の第一印象は、経営についてのビジネス書としてはなんかふんわりとしていて抽象的でキレがないなあというものだった。

 

世間で流行っている読者にわかりやすく重要な部分やパワーワードはここをメモっとけとばかりに太文字になっているビジネス書と違い、インタビューで糸井さんの受け答えはどうも歯切れが悪く、全くビジネスをしている人の言葉ではない様に聞こえる。正直、糸井重里という人をもののけ姫の宣伝コピーを考えた人で結構多くの人から好かれているらしいということ以外全く知らない僕には尚更そう感じた。

 

しかし、丁寧に読んでいくうちに(正直、2周読んだ)このわかりやすい格言のオンパレードとはかけ離れた漠然とした本は、ほぼ日という企業を経営する糸井重里の本として、そうなるべくしてなったのだとわかる。それがほぼ日のコアの部分なのだと理解する様になるのだ。

 

本書はインタビュアーの川島蓉子氏が聞き手となりほぼ日の事業、人、組織、上場、社長についてそれぞれ章立て構成されている。とりわけ印象に残ったのはほぼ日の人と組織の章だ。

 

まず、ほぼ日で働く人についていきなり面白い話が出てくる。ほぼ日では採用の基準を「いい人」とだけしている。求人の出し方も「いい人募集」という記事をウェブサイトの記事として乗せるだけらしい。では「いい人」とはどんな人なのか。それ以上の詳細な表現はしないという。少なくとも学歴や職歴、SPIなどの既存の採用基準を用いることはない様だ。糸井氏曰く、「いい人」とは定義できないそうだ。例えばいい人を「明るくハキハキした人」と謳ってしまうと応募した人はその定義に合わせた行動をとってしまうのだという。何かを表現するとき、最も大事な芯になることは、ぼわっとしているものだそうだ。だから、面接を重ね、時には合宿にも参加してもらい「このひとはなんかいい人だな。」というのを感じることを大切にしているのだという。

 

どうやら糸井氏は言葉を明確にしてしまうことで行動がその言葉に縛られてしまうことを面白く思っていないらしい。

 

わかりやすい言葉で説明するということは、とりあえず正解を作ってしまうことだ。正解を知るということは安心感を与えてくれるが、一方、その答えがもしかしたら変わるかもしれない、または別の正解があるかもしれないと考える余地を奪ってしまう。

 

最初に述べた様に、本書が抽象的で歯切れが悪いと感じたことはあながち間違ってはいなかった。それまでのビジネス書が著者たちの「これはこういうことだ」といわかりやすい言葉を定義しているのに対し、糸井氏はぼんやりとしたままで芯の部分をこれという言葉で記さず、考え行動し続ける余地を与えているのだから。

 

糸井氏がそうしたスタンスを取り続けるのには、ほぼ日の組織や事業の根幹に理由がある。それは人の「気持ち」だ。

ほぼ日は商品やコンテンツを作るのも出すのも、人を採用するのも「気持ち」を基準にしている。職場の雰囲気もそこから生み出されるアイディアも、オッなんかいいね。と感じるものを大切にしている。それがほぼ日のクリエイションなのだ。それは他の会社がなかなかできないことだ。なぜなら世の中は、言葉で定義できること、理屈や根拠を説明できることを良しとしているからだ。企画書を通すのも、就職の面接で自分をアピールするのも相手への説明、説得が必要になる。そのために売上予測の数字を並べたり、相手が理解できる言葉を用意しなければならない。しかし、そうして出てきたものは安易な正解でしかないのかもしれない。「わからない」を悪く捉える世の中では、明快で相手を説得させる「正解」を用意することが歓迎される。一般的な企業がほぼ日の様に「気持ち」を扱わないのは、それは数字や言葉で簡単に定義できないからだ。

 

ほぼ日の看板商品の「ほぼ日手帳」は作る人も使う人も「なんかいいね」となる気持ちを掘り下げて作られたものだ。この手帳はとりわけ特別な仕様になっているわけではなく、他の企業が真似しようと思えばもっと安く作れてしまう。しかし、それでは商品に「気持ち」が入っていないから受け入れられないだろうと糸井氏は言う。

ほぼ日がユニークなのは正解がどこにあるかわからないからこそ、「気持ち」が良いと感じる方向性だけを定め、上手く行く源泉に当たるまでコツコツと手仕事で掘り下げていくからなのだ。

 

それではそういう事業をやっていく組織はどうなっているのだろうか。

ほぼ日は社員にとってどんな場を提供しているのか。これにも糸井氏はこう語っている。

「商品やコンテンツは誰が作ったじゃなくて「どんな場が」作ったかと言うこと。アイデアは一人から出るものじゃない。人が混ざり合って面白い空気になっている「場」から生まれる。」

面白いものは停滞した空気からは生まれない。誰かが思いついたアイデアを隣にいる社員に投げかけて、そこで反応の良し悪しを確かめ、話が膨らみ醸成される。そうなるには職場が遊び場の様な楽しい雰囲気になることが大切になってくるのだと言う。

 

これら以外にも、なぜこの様な素朴な組織が上場をするのか、それは外から見られることで会社として鍛えるためだ。とか糸井氏なりの社長のやり方など参考になる話が出てくる。

 

この本を読んでもほぼ日が実践していることを他の組織にに応用することは難しいだろう。そもそも体系だったハウツー本ではない。しかし、ほぼ日という会社は「気持ち」を芯に置いて「良いこと」を事業として社会に貢献していこうとうしている日本社会ではユニークで楽しそうな会社であることは間違いない。その経営の仕方から参考にできることは多いと思う。ほぼ日の様な会社が増えたら面白いだろう。そして、ほぼ日の「気持ち」を大事にする事業がどう熟成していくのかが楽しみだ。

 

 

すいません、ほぼ日の経営。

すいません、ほぼ日の経営。

 

 

 

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