TOMYAM JOURNAL

世界の片隅でしたためる個人備忘録

映画『パターソン』を観て思ったこと。オフビートな人生というスタイル。

 ジム・ジャームッシュ監督の「パターソン」という映画があります。

 パターソンという街に暮らすパターソンという名の青年の一週間を描いた物語です。いや、物語というようなものでは無いかもしれません。彼は市バスの運転手の仕事とし、奥さんと一匹の犬とともに素朴な日々を送っている。そんな彼の楽しみは仕事の休憩時間を使って詩を綴ること。日々の生活の中で目にする些細な出来事についての詩や愛する妻への詩を書き溜めていきます。つまり平凡な人間の平凡な一週間の記録といっても良いかもしれません。

 では、この映画のどこに惹かれるのか。それはそんな平凡な人間の平凡な生活そのもの。パターソンくんの日々の営みに惹かれるんです。

 

 この作品のキーは詩です。パターソンくんは詩人ですが職業としての詩人ではありません。彼は詩を世に出してはいませんので、誰からも詩人としての評価を受けてはいません。唯一彼の詩を読んでいるのは彼の奥さんだけです。奥さんは彼に詩集を出版してみてはと勧めますがパターソンくんはあんまり乗り気ではありません。果たして彼にとって詩を書くこととはどのような意味を持っているのでしょうか。

 

 パターソンくんが詩集を出版することに乗り気ではないのは、彼は別に有名になるために詩を書いているわけではないからです。彼はただ自分のため、そして奥さんのためだけに毎日詩を書いているんです。

 ここがこの作品の核心だと思います。ジャームッシュ監督はパターソンくんの生活を通して、有名でなければ詩や音楽を始め芸術は意味がないのかとメッセージを送っているように取れます。芸術は有名になるためや金を稼ぐための手段じゃないといっているよ風にも解釈できます。

 

 話が少しややこしくなってきましたが、身の回りのすべてを鑑賞の対象としその素晴らしさを見出す詩や芸術はお金とか名声が得られなくても尊いものです。

 華やかで刺激的な世界観ではないですが、この作品で丁寧に映し出されるパターソンくんの一週間をみていて私はこの平凡さに憧れを感じずにはいられません。

 ジャームッシュ監督の作品はどれもヒーローではない人々の些細な人生を描いています。彼の映画は静かで一見退屈ですが私は彼の映画が好きです。それは軽やかに生きて人生を満喫したいという私の考え方にリンクするものがあるからでしょう。

 

 

パターソン(字幕版)