[書籍]モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語
内田洋子 著
内田洋子という名前は以前から知っていた。本屋で著作を見るたびそのタイトルからイタリア在住で、イタリアをテーマに書いているんだろうなと予想していた。
未だイタリアを訪れたことのない私には、いつか行ってみたい憧れの国だ。今回初めて著作を読むことになり、一体どんなイタリアを文章で楽しませてくれるのだろうと胸が膨らんだ。
本書は、著者がヴェネチアにある書店の店主にその書店の歴史を訪ねるところから始まる。
その書店は代々、ほんの卸業を営んできた。ただ、彼らは初めからヴェネチアに書店を構えていたわけではない。元々は旅をして本を露店で売り歩いていたという。その出自はモンテレッジォというヴェネチアから300km以上離れた山奥の小さな村であった。
その昔、村から何十人もの村人が、イタリア各地へと本を売り歩いていたという。
現在では、廃村寸前といってもいい山奥の小さな村の人々が何故、本を売り歩くようになったのか。
著者はその歴史を調べ、モンテレッジォを訪ね、本を売る村人たちの織りなす人生と人々の本に対する愛情を追っていく。
モンテレッジォは農作に適した場所ではない。それ故に特産品もなく、村人たちは必然的に売れる物を売らなければならなかった。その中で落ち着いたのが本だった。
村人たちは、出版社から余っている在庫を預かり受け、方々を周り、その本を読みたい人を見つけ、売る。訪れた先々では、人々がどんなことに興味があり、どんな本を欲しているかに耳を傾け、それを出版社に伝える。そしてまた、本を仕入れ、必要な人に届ける。そうして、卸売としてのスキルと信頼を代々積み重ね、イタリア中に散らばっていった。先出したヴェネチアの書店にもその血筋が流れているのだ。
彼らは今日でも、イタリア中の小さな書店で人々の知識への欲求に答え続けている。
本書の内容はイタリア文化の中でもなかなかニッチな物だが、豊穣な文化の土壌の一端を垣間見ることができた。
ちなみに、今まで内田洋子の著作を読まなかった理由には、Kindle版で配信している著作が見つからなかったからだ。
しかし、本書を”手に取って”、その理由がわかった気がする。本書の装丁や挿しに使われている写真の色合いなど、本そのものの作りにこだわっているのがわかる。著者もこよなく本を愛する人の一人であり、読者には、実際に本を手に取った時の表紙の肌触りや本の厚み、そういった所にも愛着を感じて欲しいのだろう。